学校にも東京にも、最初は居場所なんてなかった。でも、だから「見える」こと

2018年06月01日

「お前のこと、友達だと思ってないから...さ。このグループにいれられないんだわ」

その瞬間、涙がボロボロ溢れた。自分は「選ばれない側」の人間なのだ。小学5年生、修学旅行の班を決めたときのことだった。

友達は多い方ではない。でも、いつも遊んでくれる仲間はいたし、ちょっとイケてるグループに入れたら、自分も少しはマシに見える気がしていた。でも、困った表情で事実を伝えてくる「友達」は、居心地が悪そうに視線を落とす。

え? 何、この気まずい雰囲気? 友達だと思ってたのに、もしかして俺...勘違いしてた?


Red Kikuchi / BuzzFeed Japan



2016年に発売された自伝本『Mr.Complex Man』にはこう記されていた。

「なんか、ずっと認められなかった。選ばれないという感覚は確かにある。こんな経験ばっかりですよ」

そう幼少期を振り返るのは、ギター片手に歌い続けるミュージシャン、高橋優だ。5月30日にリリースした『プライド』は、アニメ「メジャーセカンド」の主人公を想像させる言葉ではじまる。

君ではダメだと言われてしまったか?
君じゃない人の方がいいと諦められたか?
そんな言葉を本当だと思うのか?
まだやれるのにチキショーと叫ぶ心はあるか?

「『プライド』は、『メジャーセカンド』のエンディングテーマ曲。主人公は、野球のメジャー選手の息子。期待を過度にされるも、応えられない。立場は全然違いますが、人から認められてなかったのかなと思うようなところは、自分にも少しリンクする部分がありました」


『プライド』(YouTube) 提供:ワーナーミュージック



「裏切りたいわけじゃなかったけど、裏切ってしまったり、選んでもらえない。僕は、そういう経験をしてきたから」

彼の叫びには、「選ばれない」という強烈なコンプレックスと「抑圧に対する怒り」があるのかもしれない。
(取材:BuzzFeed Japan 嘉島唯)

先生、どうして怒ってくれないんだよ


秋田で生まれ育った高橋には強烈な原体験がある。過疎化が進んだ地域の小学校で「居場所」がなかった。7歳のときからいじめにあっていたのだ。担任は黙認していた。これは、『Mr.Complex Man』にも綴られている。

親には絶対にバレたくなかった。だから何も言わずに、毎朝家のドアをあけた。「今日どうだった?」と親に聞かれるのが嫌だった。学年が上がり、いじめはなくなった。でも、どうしてだろう。クラスに馴染めなかった。だから、グループにも「選んでもらえなかった」のだ。

「学校に行きたくないっていう意思表示も、僕はできなかったんですよ」と自嘲的に笑う。かっこよくない自分を認められなかったのかもしれない。

「選ばれない」コンプレックス


こんな原体験が、いつも斜に構えてしまう癖をつくったのかもしれない。音楽の道に進む時も、親から「普通の道に進みなさい」と言われ、反発した。いつもなんだか「選ばれない」。


Photo by: 新保勇樹



「同じ時期、事務所に入った同期のバンドもいて。事務所にはスターがたくさんいたので、一緒に『すごいなぁ、芸能人がいっぱいいる』って一緒に言い合ってましたね。2008年くらい」

彼らはすぐに華々しくデビューした。街を歩くと、一緒に沸き立っていた「友達」の曲が流れる。一方、自分はライブをしてもオーディエンスは集まらなかった。

「他にも同世代でデビューしてる人たちはいっぱいいたけれど、妬んだり僻んだり、そういう感情は起きませんでした。それよりも自分が許せなかったです」

「自分もいつかあのステージに立つんだってことを信じるしかなかった。そのために今やらなきゃいけないことを常に探していました」

「路上は、みんなが流れていく場所。日によっては2時間半、自信のある曲をやり続ける。立ち止まってもらった瞬間にライブが始まるんです。『ありがとうございます』って言って、2曲目。いなくなったらまた1曲目をやり続けます」


Melpomenem / Getty Images



ときには、目の前を歩く子どもの耳を塞ぐ母親に遭遇することもあった。

「めちゃくちゃ傷つきますよ。東京っていう街を、何度も何度も嫌いになりそうになった」


センター街のHMV。現在はFOREVER21が店舗を構える。(時事通信)



でも、東京には物がいっぱいある。レコード店で輸入盤のCDを買う瞬間、胸をときめかせた。

「お金を持ってないから、毎回、目星をつけて、次お金入ったらこのCDを買おうって決めるのが唯一楽しい時間でした。いい音楽見つけると嬉しくて。東京は物がいっぱいあるから」

それから2年、メジャーデビューを果たす。

「デビューが決まって応援してくれる人が増えたのは嬉しかった。でもすでに時代は進んでいて、自分たちで販路を作って活躍している方もたくさんいたから、浮かれることはなかったですね」

仲間ができて嬉しかった。でも、素直になりきれない部分もあった。ニコリと笑っても、「目が笑ってない」と言われる。自分でもわかっていた。起爆剤はいつも「自分自身に対する怒り」だったから。

30歳をすぎて、「友達」が増えたのかも




Red Kikuchi / BuzzFeed Japan



心境に変化も起きた。ちょうど30歳を迎えたころ。「社交的キャンペーン」を自分に課した。誘われたら「絶対に行く」と自身で決意したのだ。

真っ直ぐすぎる高橋は、コミュニケーションをとるのが苦手で、友達と呼べる存在が少なかったという。デビュー時からタッグを組んでいるアートディレクターの箭内道彦には「近年稀に見るとっつきにくいタイプ」と言われたくらいだ。

「僕、当時は色んなことに怒っていて。間違うことはダメだと思っていたんです。だから、ずっと正しさについて歌いたかった」

「でも、社交的キャンペーンをやっていると、お酒を飲みすぎて次の日に体調を崩すこともあって。普通に考えたら人としてダメじゃないですか。でも、はじめて友達同士で『俺らダメだなぁ』っていう素晴らしさに気がついたんです。笑って間違おうぜ!って」

友達と「バカをする」ことで、得るものは大きかった。もちろん怒りは原動力の一つではある。けれども自分にとってポジティブなものを探す楽しさを見つけた。正しいだけでは見落とすものもある。真っ直ぐ進むだけでは破れない壁もある。


Photo by: 新保勇樹



「地球の上で一番ラクな体勢って寝そべること。重力に身を任せていればいいので。立ち上がるためには筋力が必要だし、歩いたり走ったりするのもそう。メンタルも同じだと思うんです」

「どちらかといったらちょっとしんどいけれど、ポジティブに向かっていたほうが歩いたら面白い方に行ける。ゲーセンにも映画館にも行ける。寝そべっているだけだったらどこにもいけない。今日がすごくダメだからこそ、僕は『明日は』って歌うんです、多分」

『プライド』の最後はこうしめくくられる。

君ではダメだと言われてしまったか?
君じゃない人の方がいいと諦められたか?
そんな言葉を本当だと思うのか?
まだやれるのにチキショーと叫ぶ君が主役の
明日を さぁ始めよう

「プライドって普通、かっこわるいんですよね。自尊心とか自意識とか、プラスの意味じゃない。でも、開き直ろう。プライド持っていこうよって言ってるんです。チクショー!って言いながらかっこわるくても、いいじゃないかって。僕自身、プライドが高いから、こうなんです」

アニメの主人公を思わせる歌詞・曲ではある。でも、負の感情をずっと抱えてきたからこそ、高橋は、前を向こうと叫ぶ。ずっと「選ばれなかった」人だけに、描ける言葉がある。

「いじめられた経験のある人だけが見える景色ってあるんですよ。だから、もし、つらいことが目の前にあったら、それはいつか絶対に活かせる。僕はそれを歌いたい」

〈高橋優〉 シンガーソングライター
1983年12月26日生まれ。秋田県出身。札幌の大学への進学と同時に路上での弾き語りを始める。2008年活動の拠点を東京に。2010年『素晴らしき日常』でメジャーデビュー。5月30日(水)シングル『プライド』発売。

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