山田孝之なら仕方ない

2018年11月16日

山田孝之なら仕方ない。

会社を設立して取締役に就任し、300人もの女性のバストを測定したかと思うと、NHKの番組で自らの胸毛の写真をさらしながら、シュールな植物解説をしてみせる。

何をやっても不思議と許されてしまう「治外法権」俳優。

どんな役にもなりきる「カメレオン俳優」はざらにいるが、俳優という枠すら飛び出して変幻自在に擬態してしまう山田のような存在はそういない。

新作映画『ハード・コア』に主演し、プロデューサー業にも意欲をみせる異才が、「光」と「闇」に彩られた過去・現在・未来を語った。
(取材:BuzzFeed Japan 神庭亮介)


Photo by 中村風詩人



暗黒の20代


人生長いな。いつ終わるんだろう。20代のころは、そんなことばかり考えていた。誰にも会いたくない。メールも電話も返さない。「どうせ返事もないし、孝之に連絡先を聞いたって意味がないよ」。共演者にはそう言われた。

太陽すら鬱陶しくて、わざわざ日当たりの悪い部屋に引っ越した。日が沈むと動き始め、空が白むころ家に帰って眠る。ドラキュラのような昼夜逆転生活。

「昼の11時から1時ごろ、太陽がてっぺんに昇る時間に、ほんの30センチだけ光が射す。マックスでヤバかった時は、そういう部屋に住んでました。すべてを拒絶してましたね」

「別にネガティブじゃないですよ。楽しいこともありましたし。ただ、ひっくるめて人生って考えたら、あんまり面白いもんじゃないなって、ずっと思ってました」


Photo by 中村風詩人



人生を楽しむために


30代になって、考え方が180度変わった。

「いま、本当に楽しいですね。子どもが生まれて気持ちが『変わった』っていうんじゃなくて、『変えた』んです。子どものできた父親が『人生早く終わらないかな』なんて言ってたら、どうしようもない。まず、その気持ちを変えようと」

「『生きたい』って思わなきゃいけない。『生きたい』と思うためには、人生を楽しくするしかない。楽しくするためには、どんどん色んなことをやっていけばいい」

「一期一会を大切に、出会った人と色んな話をして。一緒に何かできないか考えてみたり。本気で考えれば、本気で実現していく。それでどんどん、楽しくなってきた感じですね」


Photo by 中村風詩人



一般人と飲み友に


来る者は拒まず。予断なく誰とでも会うようになった。

飲み屋でたまたま隣り合わせになった伊藤ハムの営業マンと親しくなり、一緒にバラエティー番組に出演した。「だって、おもしろくないですか? 伊藤ハムの営業の人となかなか会えないし」と、こともなげに言う。

偶然知り合った人と仲良くなって、旅行に行ったこともある。この人には警戒心というものがないのだろうか。

「大丈夫、ハメられないです。わかりますもん。最初に会って、目を見た瞬間に。仮に足をすくおうとする人が来ても、警戒しないでグイグイいきますね。むしろ僕の方が警戒されるかも。なんでこいつ、芸能人なのにグイグイ来るんだろう、みたいな」


Photo by 中村風詩人



300人のバストを計測


昨秋には、トランスコスモスと共同でECプラットフォーム「me&stars」を立ち上げ、取締役に就任。「山田孝之が1日受付を務める権利」を出品し、女性向け下着などを販売する企業に2700万円超で落札された。

今年5月、山田が300人の女性のバストを計測するという、斜め上な「受付」イベントを開催し、ネット上で話題をさらった。

イチから企画を考えるというよりは、周囲からの提案を面白がり、そこに山田なりの視点を加えてブラッシュアップしていく――という形で関わることが多いという。

「自分発信はほぼないです。僕、大枠が考えられなくて。でも、『孝之でこういうことをやりたいんだけど』っていう大枠がきたら、そこにめちゃくちゃアイディア出します。それならこうやって、この人を入れてとか、バーって言う」


イベントで女性のバストを計測する山田孝之(me&starsのTwitterから)



「いいっすね」で取締役に


一線で活躍する現役俳優が取締役として企業に参画するというだけでも驚きだが、当人はいたって自然体だ。

「『こういう会社をつくりたくて...』と誘われて。いいっすね、やりましょうかと。モデルさんがコスメやアパレルをつくったり、ミュージシャンがバーを経営したり。割とみんなやってるじゃないですか。だから、そんなに変わったことだと思わないんですけど」

「僕が常に言っているのは、ウィンウィンってこと。この人もいい状態、僕もいい状態でいられるベストを探していく。どんな状況でも、そこは考えてますね」

教科書は1ページずつ破る


「陰と陽」の両極を行き来するような性格は、幼いころからだ。

「イタズラ好きで人の気を引くことばっかり考えて、クラスで一番の目立ちたがり屋でした。先生にも怒られるし、クラスでも結構ウザがられてましたね」

勉強が好きになれず、教科書は読み終えるたびに1ページずつ破り捨てた。

「1週間の復習をします」
「すみません。ページないです」
「あ、山田はいいよ、もう」

教師にもサジを投げられていた。


Photo by 中村風詩人



寂しいし、構ってほしい


型破りな行動の反面、内向的な一面もあった。学校に行くフリをして家の近くで時間をつぶし、母親が仕事に出ると家に戻ってしまう。

「寂しかったんだと思うんです、単純に。両親が共働きで家にいなくて、姉ちゃんも年が離れてるから、遊びに行って帰ってこない。家に一人でいることが多かったんですよね」

「家族に構ってもらえないから、学校ではみんなに構ってほしくて、人の気を引くようなことばっかりやってたんだと思う。ずっと寂しいんじゃないですか、こう見えて。いまも構ってほしいし。幼少期から何も変わってないですもん」


Photo by 中村風詩人



絶対、死なないですけどね


鹿児島から上京して俳優になってからも、「陰」の部分は時折ひょっこりと顔を出した。駅のホームの下に吸い込まれそうになり、ふと我に返ったこともある。

「昔、吉祥寺の駅でありましたよ。電車が来て、いま行ったら楽になれるんだ、行こうみたいな。東京に来て、人身事故がなんで起きるのかすごい不思議だったんですけど、あっこうやって起きるんだって」

「17、18歳かな。彼女の浮気が発覚したと思ったら、実は僕の方が浮気相手だったんですよ。はあ、もういいや...って。まあ、付き合ってたと思ったら、ただの浮気相手だったっていうの3回あるんで、僕の人生(笑)」

「誰でも一度ぐらい、死にたいと思ったことがあるでしょう。ただ、それだけの話です。去年も思いましたよ。何のために仕事してるんだろうって絶望の淵に立たされて。辞めてやる!死んでやる!って。絶対、死なないですけどね」


Photo by 中村風詩人



カートの言葉に共鳴


テレビドラマ『WATER BOYS』や『世界の中心で、愛をさけぶ』などに主演し、二十歳にして一躍人気俳優に。一方で「二枚目の主演俳優路線」ばかりを要求されることに、物足りなさも感じ始めていた。

《俺に考えられる最悪の罪は、自分は100%楽しんでいるふりをして、人をはぐらかすことなんだ。時々、ステージに出る前にタイムカードを押すべきじゃないかって感じることがある》
(チャールズ・R・クロス『Heavier Than Heaven』)

ロックバンド「ニルヴァーナ」の故カート・コバーンが遺書に綴った言葉に、自身を重ねた。

「共感しましたね。20代の前半はまだ仕事も選べない時期でしたし。いまの俺とまったく一緒だなって」


ロック界のレジェンド、カート・コバーン(Frans Schellekens / Redferns)



だったら俺じゃなくていいじゃん


「このセリフの時にこっちに来てください」
「言い終わったら、あっちを見てください」

流れ作業のように淡々と進む撮影現場。

「ごめんなさい。どういう気持ちになるかわからないんで、一回やってみてもいいですか」
「いや、もう決まってるんで、指示通りにやってください。こっちから撮って、背景はこうです」

異論は一顧だにされず、段取り通りに進行していく。役者はただの「歯車」の一つに過ぎないのか。すべてではないが、そんな現場も経験した。

「だったら俺じゃなくていいじゃん、みたいな。言われたことをできる人でいいなら、ほかにもいるのに。自分という存在は何のためにあるんだろうと思ったことは、何度もあります。それはみんな、あるんじゃないですか」


Photo by 中村風詩人



最新作でもクセ者役


もっと色んな役を演じたい。少しずつ希望が通るようになり、映画『クローズ ZERO』『闇金ウシジマくん』、ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズなどで、多彩なキャラクターを演じてきた。

「やらせてもらえなかったころはフラストレーションがありましたけど、いまはすべていい経験だったと受け入れてます。最初から自分で役を選ばせてもらっていたら、ろくでもない役者になってた可能性もありますから」

11月23日公開の映画『ハード・コア』(山下敦弘監督)で演じる権藤右近も、一癖も二癖もある役だ。

右近は社会に適応できず、呑んだくれては暴力沙汰を引き起こす無頼漢。友人の牛山(荒川良々)、廃工場で見つけたロボットの「ロボオ」、弟の左近(佐藤健)とともに、群馬の山奥で埋蔵金の発掘をもくろみ、人生の一発逆転を狙う。


「若い子が見たらワクワクするんじゃないかな。で、見終わった後に『もしかして見ちゃいけないヤツだったのかな...』ってなってほしいです」 ©2018『ハード・コア』製作委員会



純粋で行動力はあるが不器用で世の中になじめない右近と、キレ者の商社マンで世渡り上手な左近。当の山田自身はどちらのタイプに近いのだろう。

「どっちもあると思います。左近寄りだけど、右近もたまに出てくる。左近のように順を追って頭で考えつつ、よしいくぞ!っていう時には右近みたいな状態になりますね」

「外から見ると感情でドン!と動く右近の部分が目立つから、『こいつ変なことやってるな』って思われるけど、理屈はちゃんとあって。『絶対こうです』って感覚で言い切っちゃう時も、なぜ『絶対』なのかは全部説明できます」


山田孝之演じる権藤右近と佐藤健演じる左近 ©2018『ハード・コア』製作委員会



「面白い」映画と「すごい」映画


自分にウソをつけないところは、右近的かもしれない。出演した映画が心から「面白い」と思えない時は、試写会で聞かれても「すごい映画です」と答えるようにしていた。

「好みは人それぞれだし、面白いと思う人も絶対いるので、『面白くない』とは言っちゃいけない。かといって、ウソはつきたくないし、どう言ったらいいんだろう。そうだ、『すごい』だと」

悪くないアイディアだったが、そのこと自体を公言していたので、途端に手の内が知れ渡ってしまった。

「ファンの人たちに知られちゃったから、もうその手段は使わない。でも、今回の作品はすごくもあるし、面白くもあると思いますよ」


「ロボットが出てきたり、埋蔵金を探したり、ロマンを詰め込みまくった作品です」 ©2018『ハード・コア』製作委員会



プロデューサー業に進出


様々な領域に果敢に挑み続ける山田が近年注力するのが、映像作品の製作者としての仕事だ。

『ハード・コア』では撮影終了後の一部プロデュース業務に携わり、ドラマ『聖☆おにいさん』でも製作総指揮に名を連ねる。

来年1月公開の映画『デイアンドナイト』(阿部進之介主演、藤井道人監督)では完全に裏方に徹し、ロケ地選びからオーディション審査、スポンサー交渉、脚本の会議に至るまで、プロデューサー業に全力投球した。

プロデュースへの関心が芽生えたのは十数年前。撮影現場で感じた不満を役者仲間と話しながら、「文句ばかり言っていてもしょうがない。プロデューサーの立場でものをつくってみたら、改善できることもあるかもしれない」と思い至った。


来年1月26日に全国公開される『デイアンドナイト』 ©2019『デイアンドナイト』製作委員会



現場を守る


「プロデュースに興味があるので、教えてくれませんか」

20代のころ、知人のプロデューサーに頼むと、「どうやってお金集めるつもり?」とすげなくあしらわれた。

めげずに周囲の映画関係者からノウハウを学び、ようやくプロデューサーとして一人立ちを果たしたのが『デイアンドナイト』だ。


『デイアンドナイト』にはプロデューサーとしてかかわる ©2019『デイアンドナイト』製作委員会



映画の現場では撮影が長時間に及ぶことも珍しくない。役者やスタッフの人件費を削るには、撮影日数を圧縮して1日の稼働時間を増やしてしまうのが手っ取り早い。

「お金をなるべく安く上げて、映画は大きく当てたい。だけど、それで役者やスタッフの万全な状態がキープできるかっていうと、できないですよね。結果的に作品のクオリティーも下がってしまう」

「映画は億単位のお金が動きます。お金を出す人、集めてくる人はリスクを背負っているので、仕方のない面もあるのかもしれない。でも同じぐらい、現場の人間も体やメンタルの面でリスクを負ってますから。そこもちゃんと守ってあげなきゃいけないですよね」

現場の長時間労働に頼らずとも、いい映画はつくれるだろうか。そう問いかけると、「できます。1本映画を撮っただけで、わかりました」と力強く答えた。

「働きやすい現場を目指すのは、作品のクオリティーを上げて、世界の人に見てもらいたいから。ただ、人に強要するつもりはありません。僕はそうします、っていうだけなんで」

神出鬼没の「治外法権」俳優は、今度は何をしでかしてくれるのか――。きっとまた、思わぬ仕掛けで驚かせてくれるに違いない。


「足を引っ張りたい人には、引っ張らせておけばいい。はい、はい。俺はもう行くからっていうだけです」 Photo by 中村風詩人



〈山田孝之〉 俳優・プロデューサー。
1983年、鹿児島出身。1999年に俳優デビュー。2003年、『WATER BOYS』(フジテレビ系)でドラマ初主演、2004年『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)ではザテレビジョンドラマアカデミー賞主演男優賞を受賞。以降、『電車男』『クローズ ZERO』『闇金ウシジマくん』『凶悪』などの映画に出演。『ハード・コア』では、ドキュメンタリードラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)の山下敦弘監督とタッグを組む。

(動画撮影:Mizumi Masato 編集:Red Kikuchi)


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