アトピー治療 ステロイドって怖くないの?皮膚科の常識・非常識

2017年11月21日

適切に使えば、とても良いお薬です。【上岡なぎさ BuzzFeed Japan, Contributor / 皮膚科専門医】

私は皮膚科の専門医をしています。様々な皮膚の病気を診ますが、特によく心配されるのが、ステロイド外用薬やアトピー性皮膚炎の治療についてです。

「ステロイドって怖いんじゃない?」
「いっとき治っても、すぐリバウンドするのでは?」

患者さんは様々な不安を抱えていらっしゃいます。また最近では、アトピーに使うヒルドイドという保湿剤を、美容クリームとして使うのが流行っているという話もよく聞きます。

こういった疑問・不安に、皮膚科医として一つ一つお答えします。一緒に正しい知識を学んでいきましょう。


Nozomi Shiya/BuzzFeed



ステロイド外用薬のウソ・ホント


「ステロイドを塗ると皮膚が黒くなるのでしょうか?」

これは、外来で非常によく聞かれる質問です。

実は、皮膚の正常な反応として、かゆみを伴う湿疹などの炎症が起きると、皮膚はまず赤くなります。そして、その赤みが治る過程で多くの場合「炎症後色素沈着」という色が黒くなる反応を起こします。

ステロイド外用薬は炎症を治す薬なので、結果として治った後に色素沈着が起きることがあります。そのため、このような誤解が生じたと言えます。

しかし、ステロイドを使っても使わなくても、赤みを伴う湿疹などの炎症が起きてしまえば、少なからず色素沈着は起きます。むしろステロイドを使用せず、炎症をこじらせて長引かせてしまえば、その分、結果として色素沈着のリスクは高まります。

治療して炎症の期間を短縮した方が、色素沈着のリスクは減るのです。

「ステロイドを使うとリバウンドする」というのも、よく耳にする誤解です。

そもそもステロイド外用薬は、赤ちゃんの肌に使える弱いものから大人でも顔には使えない強いものまで、5段階の強さがあります。そして、皮膚の炎症の程度はその状況により様々です。

よく患者さんに説明するときに使う例えですが、湿疹は山火事のようなものだと思ってください。そして、ステロイド外用薬は鎮火するための消火の道具です。

炎症が強くかゆみが強いときは、山火事が燃え盛っているような状況です。そんな状況で、チョロチョロと心もとないジョウロのような水を少しかけたところで、どうなるでしょうか。全く効きませんね。

では、一時的には効果のあるホースでの放水はどうでしょうか。起きたばかりの山火事(湿疹)であればすぐに鎮火するかもしれません。

しかし、予想以上に強い火力であったり、あるいは長いことくすぶっていたりするような場合はどうでしょう? 

いったん火の勢いが弱まったように見えても、放水をやめた途端、また火種となるかゆみがぶり返し、元の木阿弥になってしまうこともあります。これがいわゆる、「リバウンド」と誤解されている現象だと思われます。

では、どうすれば良いのか。

「きちんと説明してくれる皮膚科専門医の元で、炎症にあった強さの薬を適切な期間・適切な塗り方で使用すること」が大切です。

虫刺されのような短期間で生じるものからアトピー性皮膚炎のような長く続くものまで、皮膚に起こる炎症は様々です。

専門外の先生の場合、どうしても使い慣れた一つの薬ばかり出してしまいますが、本来はその症状に合わせ細かく使い分けをしていきます。それこそが治療で最も必要なことです。

また、使う量も大事です。どのように使えばいいのでしょうか?

塗り薬の適切な使い方は?


飲み薬と違い、塗る量が分かりにくいのが外用薬です。そこで、分かりやすい目安として「1FTU(Finger Tip Unit)」と言われる方法があります。
人差し指のひと関節分に軟膏を繰り出すと、それで両手のひら分の面積が塗れるといわれています(ローション剤の場合は、手のひら1円玉大に相当)。



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アトピー性皮膚炎など面積が広い場合は、このFTUを意識して使うと正しい外用量が守られます。

量が多すぎてもよくないですが、少なすぎても無理に皮膚にすり込んだりして摩擦刺激が起き、十分な外用効果が得られないこともあります。

次に、よくお母さんから聞かれる質問が以下のものです。
「赤ちゃんにステロイド外用薬を使う場合、顔や手に軟膏を塗ったあと舐めてしまっても大丈夫ですか?」

結論から言えば、問題はありません。

軟膏中のステロイドは、ワセリンなどの基剤に溶けています。そのワセリンの成分の多くはパラフィンです。人間が口から摂取すると、消化できずにそのまま排出されます(油便)。

また、パラフィンの融点は58℃~60℃と高温であるため、ステロイドの成分が溶けだして腸内から吸収する可能性はかなり低いと言えます。

チューブを丸々1本飲んでしまうのであれば念のため1度受診はしてよいと思いますが、舐めてしまう程度であれば問題ないため、指示された量をしっかり外用してくださいね。

このように、さまざまな誤解や心配も、一つ一つ見ていけば不安が解消されることが分かって頂けると思います。

結局、ステロイドは怖い薬?


「結局、ステロイドって怖い薬なの?」

患者さんから聞かれたら、必ず「どんなことが不安でしょうか?」と聞くようにしています。

知人から怖い話を聞いた、ネットでこんな話を聞いた・・・。その不安に向き合ってきて、そのほとんどを占めるのが今書いてきたような内容です。

改めて、皆さんにお伝えしたいのは、次のことです。

正しい知識で使えば、皮膚の病気でこれほど頼りになる薬はない!

何事もそうですが、使い方ひとつで作用は大きく変わります。

たとえば、どこのご家庭にもあるハサミ。紙や糸を切るのに必要不可欠なものですよね。

でも、刃物であることに変わりはなく、使い方を間違えれば凶器になります。「ステロイドは怖い!危険!」といって使わないという考え方は、「ハサミは凶器だから絶対使わない!」と言うのと同じようなものかなと思います。

とはいえ、使い方が難しい時も、もちろんあります。なので、状況による使い方をきちんと説明してくれる、かかりつけの皮膚科専門医を見つけるのが近道だと思います。

いたずらにステロイドを恐れる風潮の一端は、我々皮膚科医の説明不足にもあると思っています。特にアトピー性皮膚炎の患者さんは、可能な限りご自身である程度使い分けができるように一緒に学んでいく、ということが必要です。

そうすると、はじめは頻回な通院期間も、ある程度慣れてくると必要な時のみになりますし、いい状態を長くキープすることができるようになってきますよ。

アトピー性皮膚炎の最新治療


では次に、アトピー性皮膚炎の最新の治療についてみていきましょう。

アトピー性皮膚炎の治療には、大きく分けて急性期の治療と慢性期の治療の2種類があります。

今までは主に急性期の治療が中心で、ひどくなったらしっかりと十分な強さのステロイドを使い、治ったら保湿剤のみで維持をしていく「リアクティブ(Reactive)療法」という治療が主でした。

しかし、湿疹が起きやすい状態のアトピー性皮膚炎の患者さんでは、それだけでは治療が不十分であることが分かってきました。

先述したように湿疹を山火事に例えると、慢性期では一見鎮火したように見えても、足元ではプスプスと火種がくすぶっており、ちょっとしたきっかけでまたすぐ再燃してしまいます。

医学的には、見た目は綺麗になったように見えても、顕微鏡レベルでは細かい炎症が残存している状態と言われています。

そこで、見た目が綺麗になった状態でも、連日朝夕2回の外用を連日1日1回→隔日で1日1回→週に2回程度の外用、というように、1~2週間ごとにゆっくり減らして細かい炎症もしっかり落ち着かせていく、という治療「プロアクティブ(Proactive)療法」が主流になりつつあります。

この治療法だと、悪化した時のみのリアクティブ療法に比べ、長期間皮膚炎やかゆみの改善効果がみられることが分かっています1)


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また、実際に比較してみると、リアクティブ療法を実施したときよりもプロアクティブ療法の方が、炎症が再燃する可能性が半分以下(0.4倍)になったとも報告2)されています。

1)Peserico A,et al. : Br J Dermatol. 2008 ; 158(4) : 801-807
2)Schmitt J, et al. : Br J Dermatol. 2011 ; 164(2) : 415-428
長引く湿疹は山火事のようなもの。しっかり鎮火できるようゆっくりステロイドを減らしていき(プロアクティブ療法)、かゆみのない、皮膚のバリア機能が保たれた状態を長くキープしていく治療が主流になりつつあります。

皮膚の状態が食物アレルギーにも関係?


そして、この皮膚のバリア機能をしっかり保つことの重要性が、もう一つ、近年の研究で明らかになってきました。

10年ほど前までは、食物アレルギーと言えば口から食べることにより発症するため、「疑わしいものは出来る限り除去する」という考え方が主流でした。しかし、ここ数年でアレルギー界の常識が劇的に変わりつつあります。

きっかけは英国のLack先生の有名な研究で、「Lackの二重アレルゲン曝露仮説」と言われています。

わかりやすく言うと、
湿疹などでバリアが破壊された皮膚を通してアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が体内に入ると、アレルギーを引き起こす方向に働く、ということです。

一方で、口から食べる経路は、どちらかと言うとアレルギーを起こさない状態(免疫寛容・耐性獲得)の方向に働くらしい

ということが分かってきました。

イギリスでは新生児の入浴後に皮膚にオイルを塗る習慣がありますが、ピーナッツオイルを配合したスキンケア製品を使用すると、乳児期のピーナッツアレルギーの発症が約8倍増加していたことが分かりました。

特に、乳児湿疹やアトピー性皮膚炎に伴う皮膚のバリア傷害があると、さらにアレルギーを起こしやすい(感作)ことも言われています。

健康な皮膚ならばしっかりとバリア機能が働くのでアレルゲンを通しませんが、炎症のある皮膚ではバリア機能が壊れ、大きな分子であるアレルゲンも容易に皮膚を通過するためと考えられています。

アレルギーの発症に関するメカニズムはまだ分からないことも多いのですが、このような状況証拠から、いたずらに食べ物を制限するのではなく(症状に合わせた専門医の指導が必要です)、皮膚の状態をステロイドや保湿剤を適宜使用しながらしっかりと改善させ、皮膚のバリア機能を維持することが大きな意味を持つと言われるようになってきました。3)4)
3)Lack G :. J Allergy Immunol 2008;121:1331-36.
4)Simpson EL, et al.: J Am Acad Dermatol 2010;63:587-93.

ヒルドイド、美容クリームとして使って効果あり?


さて最後に、先日ニュースを賑わしたのでご存知の方も多い事例について説明します。

皮膚科では非常によく使われるヘパリン類似物質という保湿成分を含むクリーム剤(ヒルドイドなど)のことです。

とある著名人に「美容クリーム」と紹介されたことで、口コミが広がり、必要のない方まで美容目的で処方を希望することが社会問題となりました。

TVや様々な媒体で各先生が解説しておられましたが、保湿剤はあくまで保湿剤。

シミ・シワといった美容目的の効果はありません。

保湿自体は健康な皮膚を維持するためには大切なことですが、それならばこの保湿剤以外にも、同様の効果が得られる塗り薬は市販薬にもたくさんあります。

ちなみに、保湿剤にはそもそも2種類あることはご存知でしょうか。

①ヘパリン類似物質に代表されるモイスチャライザーと、②ワセリンなどに代表されるエモリエントです。

イメージとしては、
①モイスチャライザーは水分と結合しやすい物質が皮膚の角層に水分を与え、うるおいをキープする効果があり、

②エモリエントは皮膚を油膜で覆うことで水分の蒸発を防ぎ、角質を柔らかく保つ効果があります。

湿度が高い夏場は①のモイスチャライザーだけでも十分ですが、乾燥する冬場は①・②を併用するとより保湿効果が高まります。

また、モイスチャライザーはヘパリン類似物質だけでなく、市販薬で使用されているセラミドなどの天然保湿因子(NMF:Natural Moisturizing Factor)や、尿素製剤なども含まれます。

また、部位によっても使い分けが必要です。

もともと皮脂腺の多い顔面や胸部に必要以上にエモリエントで油脂膜を覆ってしまうと、毛穴が詰まってニキビ様の症状を起こすこともあり得ます。逆に皮脂腺の少ない四肢は、①②を併用ししっかり保湿をすると効果が高まります。

毎日の保湿は手間もかかりますから、よく理解して上手に使い分けられるとよいですね。

今回は、患者さんによく質問されることについてお話ししてみました。少しでも不安は解消できたでしょうか。

正しい知識があれば、もっと上手にお薬を使えるようになります。この記事を、皆さんの皮膚の健康維持に役立てて頂ければ幸いです。


【上岡なぎさ(かみおか・なぎさ)】 皮膚科専門医、抗加齢医学専門医、医学博士
2004年昭和大学医学部卒、2010年同大学院修了。昭和大学附属病院および関連病院での勤務を経て2013年より同大学兼任講師。
都内や横浜のクリニックで小児皮膚科・一般皮膚科診療に携わる傍ら、皮膚科専門医ならではの目線で将来を見据えた自然な美容皮膚科診療も手がける。好きな映画は『シン・ゴジラ』

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